岐部 俊郎 | 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 顎顔面機能再建学講座 口腔顎顔面外科学分野 |
研究の背景および目的
口唇口蓋裂は出生時に口唇や口蓋が裂けた状態で生まれてくる病気で日本人の約500人に一人の割合で発生しています。口唇裂の患児に対しては口唇形成手術を、口蓋裂の患児に対しては口蓋形成手術をしますが、術後の瘢痕拘縮により口唇の変形、口蓋の瘻孔や顎発育の抑制が引き起こされることがあります.そこで我々は、瘢痕拘縮を起こすメカニズムについて調べ、より瘢痕拘縮を起こしにくい作用を持つ創被覆材の開発について研究しています。
おもな研究内容
1. ラットを用いた既存の創被覆材間の創傷治癒初期過程の比較
生後8週のラットを用いた実験では、創被覆材を用いないコントロール群と既存の創被覆材を用いた群を比較すると創の収縮と閉鎖速度に差があることを見い出した。被覆材を用いた場合では、創の閉鎖速度は速いものの、創の収縮も大きく将来的な瘢痕拘縮につながると考えられた。被覆材を用いない場合では、創の閉鎖速度はゆっくりであるが創の収縮は起こりにくいことがわかった。したがって、その後の瘢痕形成においても被覆材の有無で違いが生じる可能性があると考えられた。
さらに、ラット背部の創傷治癒過程の組織を採取し、組織を観察したところ、創縁部から創の中央部へ上皮の増殖・進展が認められるが、その速度は被覆材の有無による差はほとんど認めなかった。また、瘢痕拘縮に関わると言われている筋線維芽細胞数は観察期間を通して、被覆材なしの群で多く出現している傾向が認められた。
2.NIMSが開発した新規被覆材をもちいたラットでの応用実験
今後は、筋線維芽細胞を抑制する因子を含んだ創被覆材を独立行政法人物質・材料研究機構との共同研究で開発し、ラットでの生体応用をおこない更なる解析を進める予定である。
期待される効果・応用分野
口唇裂手術・口蓋裂手術術後の瘢痕拘縮の抑制が可能になれば、 患者本来の上顎骨成長が期待され、歯科矯正や言語治療期間の短縮や、口唇外鼻修正・瘻孔閉鎖などの二次手術の必要性が少なくなり、治療期間や通院回数もより少なくできると考えられるため、患者さんやその家族の負担は軽減される。また、治療期間の短縮は国の医療費の削減につながり、国民全体の利益となると考えています。
共同研究をしている他施設について
独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)と瘢痕拘縮を防ぐ新規創被覆材の開発と実用化に向けての基礎研究を進めています。