唾石症
原因 | 唾液腺導管内に結石が形成される疾患で、唾石症は唾液腺疾患の最も頻度の高い疾患のひとつです。唾石の成因については不明ですが、唾液のムコイドに異常が起こり、これにカルシウム塩が沈殿し、唾石が形成されルと言う説が有力です。 |
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好発部位 | 顎下腺管は外傷や刺激を受けやすく排泄管が長いので唾石ができやすいとされています。 |
症状 | 食事摂取時の急激で強い終痛(唾仙痛) と唾液腺部腫脹です。排泄管周囲の炎症、特に排泄間開口部の発赤,開口部からの排膿がみられます。 |
診断 | 双手診によって唾石の存在と位置を確認し、X 線写真、必要ならCTで大きさ、位置を確認します。 |
治療 | 大唾液腺排泄管開口部付近の小さな唾石は、唾液腺のマッサージによって自然排出することがありますが、外科的に摘出します。口腔内から摘出しますが、位置により口腔外から顎下腺とともに摘出することもあります。 |
Wharton氏管の腫脹の画像
唾石のX線写真
睡液腺炎
原因 | 細菌感染、ウイルス感染、異物、自己免疫疾患、放射線照射によって生じます。 唾液分泌が異常に低下し、口腔細菌が排世管から上行性に感染することが主な原因です。 |
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1.急性(化膿性)睡液腺炎
唾液分泌が異常に低下し、口腔細菌が排世管から上行性に感染することが主な原因です。
症状 | 痛みのある唾液腺の腫脹です。腫脹は浮腫性で皮膚部に発赤を伴うことが多く、排泄管開口部は発赤腫脹し、膿汁の排世が認められます。 |
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治療 | 唾液分泌が減少し口腔内が不潔になっている場合が多いので、口腔清掃、 や含嗽剤によって口腔を清潔に保ち、抗生物質を投与します。膿瘍を形成した場合には、切開排膿を行います。 |
82歳、女性の右顎下腺炎
2.慢性睡液腺炎
唾液腺の炎症が持続性あるいは反復性に起こるなど、慢性の経過をとります。
原因 | 急性と同様で、唾液分泌低下や障害による上行性感染によるものです。 再発性耳下腺炎では通常、唾液腺造影像で末梢導管の拡張が認められます。 |
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慢性唾液腺炎の代表的な疾患
小児の再発性耳下腺炎
3から4歳の男児に反復性に耳下腺の腫脹を繰り返す疾患が多く認められます。
症状 | 片側あるいは両側の耳下腺の突然の疼痛と腫脹で3~7 日間続き、 導管開口部の発赤や排膿がみられます。繰り返す頻度は、様々ですが年齢を増すにつれて症状は軽度になり、出現頻度も減少し、思春期には自然治癒します。 |
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治療 | 急性症状を示すときは非ステロイド系抗炎症薬や抗生物質の投与を行います。十分な水分の摂取およびマッサージなどで,唾液流出を促進させるように指導します。 |
3.睡液腺の特異性炎
唾液腺が結核、梅毒、放線菌症などの特異性炎に擢患することはきわめてまれです。
結核では、主として耳下腺に,まれに顎下腺にみられます。梅毒は第三期梅毒の型で現れることが多く、放線菌症は、排泄管から上行性に感染するものと、腺周囲組織の放線菌症が波及して続発性に唾液腺炎を生じるものがあります。
慢性硬化性顎下腺炎
Kuttner腫楊とよばれています。慢性炎症が長い経過をとると顎下腺は無痛性に腫脹し、内部が線維化して硬化し、腫蕩のように硬くなります。
原因 | 唾石などによる持続的な唾液分泌機能障害、自己免疫反応、あるいはその他の慢性炎症が考えられます。腫脹以外に症状変化がないので放置されることが多いでのですが腫蕩との鑑別のために摘出されることもあります。 |
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4. ウイルス性睡液腺炎
ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎が一般的です。
流行性耳下腺炎
原因 | ムンプスウイルスの感染による伝染性疾患です。唾液を媒体として飛沫感染あるいは空気伝播によって感染します。2から6歳の小児に感染の感受性が高く、患者の唾液中のウイルスの排泄は9日間続きます。潜伏期間は2から3週間で特に腺組織や神経系を侵すことが多く、唾液腺、特に耳下腺が障害されますが畢丸、卵巣、脾臓が侵されることもあります。 |
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症状 | 小児に好発しますが乳幼児、老年者には多くありません。発熱、頭痛、片側または両側の唾液腺の持続性腫脹を伴い、突然発症します。腫脹は唾仙痛を伴い、 耳下腺の腫脹は耳前部から耳下部、耳後部、下顎角部に及び、圧痛、自発痛を伴います。両側耳下腺が侵されると唾液分泌は減少し、排泄管開口部に発赤を認めます。 腫脹は3から4 日で最高に達しますが、発熱も軽度で経過は一般に良好です。腫脹は次第に軽減し、lから2 週間で消退します。全身症状は比較的軽度ですが、髄膜炎や脳炎など合併症に注意する必要があります。成人が擢患した場合は、畢丸、副皐丸炎や卵巣炎などの重篤な合併症を起こしやすいので注意が必要です。 |
治療 | 対症療法を行います。感染力が強いので隔離することも考えます。混合感染防止のため抗生剤の投与を行うこともあります。 |
35歳、男性。両側耳下腺の腫脹。
5.シェーグレン(Sjogren) 症候群
口腔、眼の乾燥が主な症状で唾液線や涙腺などの外分泌腺が特異的に侵される自己免疫疾患(膠原病)の一種です。全身性エリテマトーデス (SLE)や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患を合併する場合は、二次性Sjogren症候群と言われています。血液検査(抗体検査)、眼の検査(涙の検査)、口腔の検査(唾液の検査)で判定します。唾液が少ないので歯頚部にう蝕が多発します。
Sjogren症候群患者さんのう蝕
Sjogren症候群患者さんの舌(平滑舌、溝状舌)
正常
耳下腺造影写真
Sjogren症候群:リンゴ樹状
正常
文責:上川善昭