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第4回もみじ会

日 時 : 平成 21年 2月 1日(日)
場 所 : 鹿児島大学病院内 鶴陵会館

会長あいさつ 南屋敷 尚美

「今回のテーマは言葉」
 講師にこの春より「口唇口蓋裂専門外来 言語聴覚士」として鹿児島大学へお越し下さる緒方祐子先生をお招きし、口唇口蓋裂による発音、発声についてとてもわかりやすくお話をして頂きました。
 体験談では内村駿介君をお迎えし、これまでの生活の中で体験した事や感じた事、友達の大切さなど、何事もプラスに考えてきた思考でこれまでを過ごしてきたという駿介君、会場をとても楽しませて下さいました。
 駿介君のお母様も以前、もみじ会サポーターとしてご活躍頂きました。
 今回久しぶりにお会いすることができ、とても嬉しかったです。
 講演会終了後の茶話会では初めてのことですがぜんざい会が催され、皆さんとおいしく頂きました。
 最後になりましたが、お忙しい中会の運営にご協力下さいました皆様、そしてご出席してくださいました皆様にこの場をお借りして、厚くお礼申し上げます。

講演「口唇口蓋裂のことばについて」
鹿児島大学口腔顎顔面外科  言語聴覚士 緒方祐子

<はじめに>

 この春より、鹿児島大学に赴任いたしました言語聴覚士の緒方と申します。今回は、着任前の2月1日に、もみじ会でお話させていただきましたこと(口唇口蓋裂のお子さんのことば)について、報告させて頂きたいと思います。

<1.言語聴覚士とは?>

 口唇口蓋裂には、様々な心配なことがあります。たとえば、ミルクを飲む量が少ないけど、大きくなるかな?手術はいつごろ、どんな手術なのだろう?この他に、ことばのこと、歯並びのこと、虫歯のこと、中耳炎のこと、お友達関係などがあります。それで、鹿児島大学病院を含め多くの施設では、ひとつの科のみではなく、口腔外科、小児歯科、予防歯科、矯正歯科、補綴科、耳鼻科、小児科などでチー・にて治療が進められます。そのなかの言語聴覚士は、ことばのリハビリテーションの専門職です。患者さんご本人やご家族、関連職種の方とともに、ことばが悪くならない様に予防し、問題が出て来たら、他の職種の先生と話し合いながら、ことばの治療を行います。
 とくに、ことばの獲得は、親御さんにとって、手術のことや上顎の成長や咬み合わせなどと同様に、とてもご心配されている課題と思います。しかし、結論から申し上げますと、口唇口蓋裂のことばは、他に難聴や発達の問題がなければ、適切な時期に適切な治療を受ければ、正常なことばを獲得することができます。お子さんが成人する頃、すべての治療が終わって、心身ともに充実していることが口唇口蓋裂の治療の大きな目標であります。そのためには、ご家族とともに、お子さんの成長に合わせて、ご一緒にお子様への適切な環境を整えて行くことが大事です。その治療のポイントはお子さんによって異なります。その治療のツボを見極めることが我々のお手伝いであると思いますので、ご心配なことがあれば、ご相談頂ければ幸いです。

<2.ことばを育む>

 口唇口蓋裂のお子さんのことばは、手術によって、構音器官の形態や鼻咽腔閉鎖機能が整え、豊かな言語環境で、年齢に応じた発音の仕方を覚え、さらに心身発達を育むことの3つのことが調和して育って行きます。よって、口唇口蓋裂のお子さんの 「ことば」は、まずは口蓋形成術などの手術で形態を整え、「ことば」の内容である言語発達を習得し、その後、機能を獲得しながら、最後に「ことば」 の外側である正しい構音を学習していきます。(図1)

 鼻咽腔閉鎖機能とは、飲み物や食べ物を摂ったり、会話をしたり、楽器を吹く時、呼気(肺からの空気)や食物が鼻に抜けないように、軟口蓋(上顎の奥の軟らかいところ)などで蓋をする機能のことです。鼻声になりやすいこと、声が過度に鼻にかかるとは、鼻咽腔閉鎖機能に関係があります(図2)。この機能は、口唇口蓋裂のお子さんにとって、とても大事なことです。

 図3は、中川信子さんという言語聴覚士が書かれた本1)に載っていた絵です。ことばを育てるためには、規則正しい生活、体の発達にあった十分な運動、手を使うこと、楽しく遊ぶこと、豊かな経験を積・ン重ねること、わかることばをふやし、口の運動を促すことなどによって、ことばは育まれます。これは、口腔外科や小児歯科や矯正歯科の先生や言語聴覚士がしゃかりきになっても、できません。お父さん、お母さん、ご家族の協力がなければ、成立しません。でも、これは、口蓋裂だから、健常だからといって、構えてするものではなく、普通の育児です。これにちょっと、口唇口蓋裂の場合は、一工夫するだけなのです。

<3.口唇口蓋裂の言語療法>

 口唇口蓋裂のことばの特徴は、4つの特徴があります。1)鼻声になりやすい(鼻咽腔閉鎖機能)。2)間違った発音を覚えることがある(構音障害)。3)お喋り始めの時期が遅い時がある(言語発達の遅れ)。4)中耳炎になりやすい。などがあげられます。しかし、これは、必ずしも、全員ではありません。

  

1)年齢や発達に合わせた言語療法  

 鼻咽腔閉鎖機能、構音障害、ことばの発達および聴力の4つの観点で、言語療法は進んで行きます。口唇口蓋裂児の言語療法は、よりよい社会生活を過ごすことができるよう、言語障害の予防および治療を目的に行います。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんに「ことばをまねしてごらん」と言ってもできません。よって、年齢や発達時期を考慮して、4つのステップに分けて治療を行います。   
 まず、お子さんが口蓋形成術を受ける1歳半頃までは、ご家族の心理面への配慮しながら、ことばの発達の促進、定期的な聴力検査を行い、中耳炎の早期発見などを行います。口蓋形成術後から4歳は、ことばの発達に留意しながら、鼻咽腔閉鎖機能の早期の獲得を目指し、構音障害の予防を行って行きます。4歳ごろになると、鼻咽腔閉鎖機能や構音の問題がはっきりしてきます。それで、問題がない方は、鼻咽腔閉鎖機能の賦活や構音障害の予防を引き続き行います。しかし、ことばに心配なことがみられた方は、来院頻度をあげて、それぞれの課題にそって、関係科の先生と話し合いながら、治療を進めて行きます。できれば、小学校に入る頃、積極的なことばの治療は終了することが理想ですが、就学後も課題が依然としてみられる方は、引き続き治療を継続します。また、この頃になると、喉の奥の扁桃腺が小さくなり、場合によって、鼻声が出てくる方もおられるの・ナ、できれば、中学生か高校生になるころまで、定期的にことばの経過を観察していきます。   

2)お子さんの課題に合わせた言語療法  

 一生懸命、練習をしていても、なかなかことばが良くならない場合があります。ことばを良くするためには、ことばの問題のアプローチポイントに合わせた治療を行うことが必要です。それは、お子さんひとりひとり異なります。ことばの課題別で考えていきたいと思います。

1)鼻咽腔閉鎖機能
 鼻咽腔閉鎖機能の獲得はとても大事で、この機能の獲得ができるかできないかで、その後のことばの獲得が左右されます。この機能がうまくいかないことを鼻咽腔閉鎖機能不全といいます。近年、鼻咽腔閉鎖機能は、初回の口蓋形成術後、約9割の方が獲得できますが、1割の方が鼻咽腔閉鎖機能の治療が必要と言われています。これは、発声時に軟口蓋と喉の後ろの壁に隙間が生じ、呼気が鼻の方へ息が抜けてしまい、声が過度に鼻にかかってしまいます。場合によっては、鼻咽腔閉鎖機能不全があるため、間違った構音を習得してしまう場合もあります。
 良好な鼻咽腔閉鎖機能を獲得する練習は、まずは、吹くことをして行きます。その練習は勢いよく吹く練習から、ゆっくり口から息を長く吹く練習を行っております。しかし、これは特訓になると、お子さんが練習自体を嫌がりますので、お子さんの興味に合わせて、いろいろな玩具(ラッパ、シャボン玉、巻き笛など)を用いて行います。また、なかなか吹くことができない場合は、無理をせず、鼻をつまんで、お口から息を吹く練習をゆっくりしていきます。鼻咽腔閉鎖機能不全の場合、お口に入れる装置のことをスピーチエイドと言います。これは、吹く練習で良くならない時に用います。時として、スピーチエイドを行っても経過が良くないときは、再手術の検討を関係科の先生と話し合いをしていきます。

2)構音障害
 構音障害とは、使われていることばが正しく構音できず、周りの人々に言いたいことが伝わらない場合のことをいいます。間違った発音を習得してしまった構音障害は、鼻咽腔閉鎖機能不全に関連する構音障害と、関連が少ない構音障害があります。その頻度は鼻咽腔閉鎖機能が良好でも、40~50%の方にみられると言われています。
構音障害・フ治療は、鼻咽腔閉鎖機能に関連がある場合か、否かで方法が異なります。まず鼻咽腔閉鎖機能不全に関連がある構音障害で、鼻咽腔閉鎖機能に課題がある場合は、先に述べた鼻咽腔閉鎖機能の治療を優先し、鼻咽腔閉鎖機能を獲得した後、構音障害の特徴にあわせた構音訓練を行います。
 一方、鼻咽腔閉鎖機能の関与が少ない構音障害の場合で、歯並びなどがことばに影響を与えていると思われた場合は、関連科の先生と話し合い、矯正治療を始める場合もあります。また、舌の動かし方が不器用な場合は、舌の動かし方などを先に練習をして、構音障害の問題に合わせた構音訓練を行います。また、構音障害の要因として、舌に力が入りすぎている場合があるので、舌の動かし方や動く範囲を広げる練習を行います。舌の動かし方が不器用な場合は、構音障害になる場合が多く、丸飲み込みで食べたり、麺類や柔らかい物を好む傾向であることが観察されることもあります。毎日の食事にて、偏食を減らすなどの家庭での工夫で、お口の機能をあげることもできますので、お願いする場合があります。

3)ことばの発達の遅れについて
 口唇口蓋裂のお子さんは2歳になっても、言葉数が少ないことがしばしば観察されます。しかし、これは、口蓋裂の他に難聴や知的発達の遅れなどがなければ、3歳頃、おしゃべりは増えてきます。しかし、手術がうまくいっても、言語訓練をいっぱい受けても、お子さんを取り囲む環境が大事です。

4)中耳炎について
 口唇口蓋裂のお子さんは、痛みを伴いにくい滲出性中耳炎に罹りやすいといわれています。聴力の問題から、ことばの発達や構音に悪影響を及ぼす場合もありますので、テレビの音を大きくする、聞き返しが多い、色のついた鼻水が1週間以上続いている場合は、耳鼻科や小児科のお医者さんへの受診が必要となります。 

 最後に、今まで出会った患者さんから頂いた印象的なことばです。「スピーチエイドをして、3年と時間はかかったけど、2回目の口蓋の手術をすることなく、きれいなことばを獲得することができてよかった。」「ことばの練習は、焦ったらダメで、大人側が一生懸命になりすぎると、子どもを追い込んでしまう。ことばの練習は、特訓ではなくて、こどもと、ともに楽しく、ともに頑張っていくことだと思う。」「ことばが良くなることで、気持ちが明るくなり、自信がついていき、前向きになることができた。」私は、今まで患者さんのことばに関わることで、患者さんやご家族が前向きにことばを治そうという姿勢を、目の前で見させて頂きました。その姿勢を通じで、ことばの課題は、けしてマイナスではなく、人として成長をされていると思います。そのことで、こちらも育てて頂いたと感謝しております。

 鹿児島で、皆様との新たな出会いを楽しみにしています。どうぞよろしくお願い致します。

引用文献
1)中川信子:ことばをはぐくむ 発達の遅れのある子どもたちのために.95 ぶどう社. 東京.1986.

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