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第2回もみじ会

日 時 : 平成19 年11 月4 日(日)13:00 〜 17:30
場 所 : 鹿児島大学病院内 鶴陵会館
日 程 : 13:00〜 「もみじ会」総会
    13:30〜 講 演
    1. 「医療援助事情」 ミャンマ−での海外医療援助活動
     鹿児島大学病院 口腔外科 川島清美先生
    2. 「家族内で話そうよ!わたしから我が子へ伝えたいこと 〜 誕生から今まで」
     北九州市立総合療育センター訓練科 言語聴覚係 斉藤裕恵 先生
    15:30〜 茶話会
    16:30〜 サポーター会議 「今後の会の運営について」

ミャンマーでの海外医療援助事情
鹿児島大学病院 口腔外科 川島清美

 ミャンマーにおいては口唇口蓋裂患者のための日本口唇口蓋裂協会による医療援助活動は1995年から開始されている。当時、ミャンマーに置いては1人の形成外科医が独占的に手術を行っていた。しかも、当時はミャンマー連邦国では歯科医師が口腔内の手術を行うのは制限されており、歯科医師に許されるのは抜歯ならびに膿瘍切開など歯科外科に限られていたようだ。
 ミャンマー政府は口唇口蓋裂患者の治療ならびに治療医の育成の必要に迫られ日本口唇口蓋裂協会に医療援助の要請を行った。1994年に日本口唇口蓋裂協会の理事である愛知学院歯学部の夏目長門教授がミャンマーへ出向きミャンマーの口唇口蓋裂患者の実情を把握し、ミャンマー連邦国の医療大臣との間で口唇口蓋裂患者の治療に関する医療援助を行うとのことで調印を交わした。それにより、1995年にベトナム医療援助隊から派生した九州大学歯学部第1口腔外科の田代英雄教授(現名誉教授) 大関悟助教授(現福岡歯科大学顎顔面外科教授)を中心にミャンマー医療援助隊が結成された。また、鹿児島大学歯学部第1口腔外科の吉田雅司助手(・サ今給黎病院歯科口腔外科部長)が九州大学歯学部の出身とのことで参加を要請されて鹿児島大学からもミャンマー医療援助隊への参加が始まった。他に歯科麻酔医1名、看護師1名の5名で活動が開始された。
 1995年当時は歯科医師が口唇口蓋裂の手術を行うことにミャンマー側の抵抗は大きかったが、医師である田代英雄教授のご尽力や大関教授の献身的な努力によりミャンマーで形成外科医以外による口唇口蓋裂手術の道が開け、同年にはわれわれのミャンマー医療援助隊により局所麻酔下で第1例の口唇裂手術が行われた。それと同時にミャンマーの歯科医師へ口唇口蓋裂手術の技術移転のプロジェクトが開始された。
 それ以降、医療援助隊の派遣の際には田代教授によるミャンマー人歯科医師への講義、手術手技の指導が行われ、ミャンマーの歯科医師への技術移転が開始された。医療援助活動当初は週3回手術、週2回はミャンマーの歯科医師への口唇口蓋裂の基礎的講義、口唇口蓋裂手術の理論、術式に関する講義が行われた。また、ヤンゴン歯科大学の学生ならびに全教職員への口唇口蓋裂のみならずに口腔外科の講義ならびに歯科麻酔学の講義も行われた。

 また、ミャンマー側のリクエストのより日本で行われている最新の口腔外科疾患の治療も紹介していた。医療援助3年目の1997年にはミャンマーの歯科医師による口唇口蓋裂手術の第1例が田代名誉教授の指導の下に開始された。1998年には口唇口蓋裂手術の技術を習得した2名のミャンマー人歯科医師へ(教授、講師)へ口唇口蓋裂手術の認定書が日本側から授与された。以降、ミャンマー人歯科医師が単独で口唇口蓋裂手術が行えるようになり、以降、ミャンマー人歯科医師による口唇口蓋裂手術が年間40〜50例程度行われている。
 1998年にはミャンマー第2の都市であるマンダレー市にミャンマーで2校目のマンダレー歯科大学が設立された。2002年の11月にマンダレー歯科大学口腔外科手術棟が日本口唇口蓋裂協会ならびに日本政府の援助により寄贈された。同年よりマンダレー歯科大学でも口唇口蓋裂手術が開始されミャンマー医療援助隊はヤンゴンとマンダレーの2チームに分かれて活動を開始した。それに伴い手術件数が増加した。2005年11月にはヤンゴン歯科大学に待望の100床を有する附属病院がオープンした。
 2006年5月には活動拠点を拡大するために地方都市へ手術器材一式とメンバーと一緒に、日本口唇口蓋裂協会が寄贈したマイクロバスで台風のために冠水した道路を難渋しながらヤンゴンからピイまで6時間かけて移動し、ピイでの口唇口蓋裂手術の活動を行い今後の医療援助隊の足がかりを構築した。ピイでの活動はめざましいものがあり医療援助隊は2名の口腔外科医の参加のみであったが、ミャンマー人口腔外科医が育成されたことによりわずか4日間の活動期間であったが日緬合同で59例の手術が行われたこれまで最も多い手術件数となった。
  第13次医療援助隊の活動は2007年3月11日から25日までの14日間にわたり行われた。予算が外務省と郵政公社から下りたこともあり、参加者が10名と2倍の人数になったことと、各人の活動期間が異なり人の出入りの激しい活動であった。
  ミャンマー医療援助隊の発足以来10年を経ており、外務省からこれまでのプロジェクトの評価を行うようにとの要望があり、第13次医療援助隊の活動はミャンマー連邦国への医療器材援助プロジェクト ミャンマー連邦国マンダレー口腔外科口唇裂診療所新築事業評価報告を行うことが主たる目的であった。しかも、2週間通しで口唇口蓋裂手術をこなすこと医療援助の口腔外科医が皆無であり手術件数は伸びなかった。
  しかしながら、ミャンマー医療援助隊の13回の足跡はしっかりとミャンマー側に根付いており、口唇口蓋裂の手術の技術を習得したミャンマーの口腔外科医はすでに10名を超えて育成されている。さらに、現在は、第三世代口腔外科医に技術移転が行われており人材の育成が順調行われている。

 ミャンマーは日本の国土の1.8倍ありわれわれの医療援助隊が派遣されるまでほとんど口唇口蓋裂の治療が行われていなかったので、これらの口唇口蓋裂手術手技を修得した口腔外科医を地方の拠点病院に配置してミャンマー連邦国全土に行き渡るようにミャンマー連邦国医療省とヤンゴン歯科大学の間でプロジェクトが進行しつつある。
  日本からの医療援助隊の活動は一つの目的であるミャンマー人歯科医師への口唇口蓋裂手術の技術移転はすでに達成されて、ミャンマー人歯科医師により通年で口唇口蓋裂手術を行なわれている・Bまた、ミャンマー人の看護師への看護技術移転 すなわち、口唇口蓋裂患者の周術期の看護等はほぼ完了し、今ではミャンマー人歯科医師ならびに看護師間での技術移転へ移行している。
  ミャンマー医療援助隊も発足後10年を経過しており、初期の目的は達成したと思われる。しかしながら、残された課題も山積している。最も大きな課題としてはこれまでに手術を行った症例に関する手術後の調査が行われていないことである。
  口唇口蓋裂患者は手術後の成長発育に伴い術部位の変形、構音障害、咬合異常、顎変形等の問題がある。それ故に、十分な経過観察が必要を行い今後の治療に反映させねばならないがまだその体制が整っていないことである。しかしながら、ミャンマーにおいては患者さんのほとんどは貧困層であり日々の暮らしがやっとである人々である。ましては、仕事を休み高い交通費を使ってまでヤンゴン歯科大学ならびにマンダレー歯科大学に経過観察に訪れることは至難の業である。

  今後は医療援助隊ならびにミャンマー側が患者さんの居住区に出かけて術後の評価を行うようなシステムを構築すべく構想を練っているところである。しかしながら、ミャンマーでの口唇口蓋裂手術に冠する医療援助は他のアジア地域の医療援助隊の活動状況に比して、上手く機能していると思われる。これは偏にヤンゴン歯科大学口腔顎顔面外科のKo Ko Maung教授をはじめとしてヤンゴン歯科大学ならびにマンダレー歯科大学のスタッフの人的資源によるところが大である。
  まず、医療先進国の技術をどん欲なまでに学ぼうとする姿勢が大きく、どんなに些細な疑問点があっても納得するまで質問し相互に議論する。そのことによりミャンマーの口腔外科の医療水準が飛躍的に向上して、ミャンマー国民のために大きな恩恵をもたらすまでになって来ている。また、ヤンゴン歯科大学のKo Ko Maung教授が非常にボランテイア精神に富んでおり、日本からの無償治療が優先的に受けられるように貧しい患者さんと高齢者を中心に患者さんの選択が行われている。さらに、ミャンマー滞在中の日本チームに対して物心両面からサポートしてくれ、兄弟同士という関係にあり、お互いに言いたいことをはっきり伝えることが出来るためにミャンマーでの活動中は快適にストレスなしに過ごすことが出来て、医療援助活動に没頭出来るので医療援助隊の成果が大きいと考えられる。
  今後は成人未治療例を発掘して早期治療を行うこと、ミャンマーにおける口唇口蓋裂患者の疫学的調査、これまでに手術を行った患者のデータベースの構築等これらの問題を解決することである。
  われわれはこれらの問題を解決すべくハードならびにソフト面からの協力を行うべくPCやハードデイスクの寄贈、データベース作製のノウハウの指導を行っている。また、消耗品である手術器具の補充、ME機器の充実を図るためボランテイア団体、大学ならびに医療器械メーカーの協力でこれらの物品の寄贈を毎年行っている。
  現在、ミャンマー連邦国は政情的には国際社会から厳しい制裁を受けており国際援助もストップしており、2007年度のミャンマー医療援助隊の派遣も延期になっている。しかしながら、このような制裁で一番困るのは一般大衆であり、ちなみに2007年度のミャンマー医療援助隊の手術を心待ちにしていた患者さんに大いなる失望と落胆を与える結果になっていると思える。早急に政情が安定して人道支援が再開できるようにと思っています。微笑みの国のあの笑顔のために!

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家族で話そうよ! 親から子へ伝えてほしいこと
ー「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えるー

北九州市立総合療育センター訓練科言語聴覚係
言語聴覚士 斉藤裕恵


<はじめに>

 2007年11月に開催された第二回もみじ会で、お話しいたしました斉藤裕恵です。今回のテーマは題名にあげたように「ご両親から我が子へ伝えていってほしいこと」についてでした。当日会場でお話したことに追加して以下の文章をまとめました。この抄録がご家族の皆様の参考になれば幸いに存じます。

<北九州市立総合療育センターの紹介>

 私が勤務する北九州市立総合療育センター(以下、センター)では、みなさんもご存じの、Hotz型人工口蓋床を用いた口蓋裂の治療および療育を提供しています。センターには産科はありませんし、口蓋裂の手術機関でもありません。ですが、外部の医療機関(産科、小児科、NICU、形成外科、口腔外科、耳鼻咽喉科、矯正歯科など)と連携し、歯科医師・言語聴覚士で構成する外来部門をもっています。
口蓋裂を伴った赤ちゃんが生まれたとき、北九州市内または市外の産科・小児科・NICUからただちにセンターへ電話連絡がはいり、その日のうちにセンターから病院へ往診します。このように赤ちゃんやご家族と出会える医療機関の連携があるので、生まれてまもない赤ちゃんやそのご家族とお会いし、お話しする機会を持てています。

<ご家族へのメッセージー出生時の家族カウンセリングの場で>

 ところで、口蓋裂を伴った赤ちゃんが生まれてまもないご家族にとって必要なことは何でしょう。北九州市立総合療育センターでは、「赤ちゃんのお誕生の祝福、赤ちゃんの治療に必要な医療情報の提供、赤ちゃんとご家族への支援」が出発点だと考え、往診による「出生時の家族カウンセリング」(生まれてまもない赤ちゃんのご家族とのお話の時間をもつこと。センターでは1984年に開始〜現代にいたる)を実践しています。
具体的にご家族にお伝えするのは、以下のことです。お子さんの裂型の成り立ちや今後必要な医療の情報を伝え、ご家族の周囲にあふれる情報(インターネットや書籍からの情報)に流されないように一緒に整理します。そのうえで、さらに、1)口唇口蓋裂を伴う赤ちゃんが生まれることを親は選べないが、どのように子育てをするかは生まれた日から始まり、親がすぐにかかわっていけることである。2)形成の手術痕は残るし、見られれば気づかれることもある。つまり、「口唇口蓋裂が全くなかったこと」にはできない。だから、口唇口蓋裂であることを本人に隠さない、また周囲にも隠さない。親が隠すことは、結果としてお子さんに何を意味するか与えるかを考えてほしい。3)隠さないことはお子さんの存在を多くの人に知ってもらうことになる。つまり今後のお子さんのがんばりや努力を皆が応援してくれるきっかけになる。4)今日出会ってお子さんのお誕生の祝福をお伝えした私たちは、いつでも、いつまでもご家族を・x援いたします。以上のことを出会ったすべてのご家族にお伝えします。
このような出会いの場から、生まれてまもない赤ちゃんとそのご家族とのつながりが始まります。以上が、センターの実施する、家族カウンセリングについてです。もみじ会の皆様がかかってらっしゃる鹿児島大学でも同様に、生まれてまもない時期から赤ちゃんとご家族への支援があります。

<なぜ「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えることは必要なの?>

 さて、いよいよ本題?「ご両親から我が子へ伝えていってほしいこと」の話に進みましょう。生まれた日から口唇口蓋裂に関連する課題とむきあってこられたご家族に、お子さんの成長とともに迎え入れてほしい、取り組んでほしいと願うことがあります。それは、親から子へ「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えていくこときです。   
ある報告を述べます。1997年に医療者から報告されたご家族へのアンケート調査結果には、お子さんに「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えなかったというご家族が二割だった、とあります。それによると、親から積極的に事実を伝えたかたは約5割、子どもにきかれてから教えたという消極的に伝えたかたが約3割でした。つまり半数のお子さんは、自分に関する自分の事実について知る機会を持ちえなかったかもしれない、という内容です。この報告を知ってどのようにお感じになるでしょうか。「自分が初めて口蓋裂について知ったときの驚きがあるから、同じ思いを子どもにはさせられない。だからこどもには伝えなくてよい。自分からは伝えられない。」「黙っておくつもりです。」というご家族のお気持ちがあることでしょう。さまざまなお考えがあっていい、とわたしは思います。   
ですが同時にこんなことも考えます。お子さんが成長し、思春期にむかいながら自己形成を成し遂げる時期には、「自分に関する事実、自分の気持ち」と向き合う力が不可欠である、とわたしは思います。自分のことを知り、自分を認め、他者と同様に自分を尊敬し、自分を大事にする能力は生きる上で欠かすことのできないたいせつな力だと思っています。この力をお子さんが持つためには「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えられ、お子さんが自分のことを知ることは必要なことだと考えています。しかもお子さんにとっては、生まれたときからずうっと自分のことを大切に思い、育ててこられたご家族から伝えられること、すなわち、親子間での「伝え」がなされることがだいじで必要不可欠だ、と考えます。

<知らなかったかたのお話>

 矯正歯科の先生から伺った、おふたりのお話を書きます。   
*先日、34歳の男性が矯正治療を求めて形成外科より紹介されて来られました。彼が言うには、「今一番頭に来てることがあるちゃん。形成外科に行くまで、口唇口蓋裂のことを母親が何も言うてくれんやった。」というのです。   
*(口蓋裂をもつお子さんたちの)親の会のピクニックの時、あるお父さんが「こどもが口唇口蓋裂で生まれたのでインターネットで調べよったら、自分にも同じような跡があったので、自分の母親に問い詰めたら、自分も口唇口蓋裂だった」とそのときいわれ、はじめて知った、というのです。   
最初の方は矯正治療のきっかけがあるので初めて手術や口蓋裂のことについて知ることになったかたです。次ぎのかたは、ご自身のお子さんのことから、初めてきっかけをもたれました。どちらの方もおとなになって初めて知って驚いた、それまでは知らされなかった、という方でした。

<お子さんとの生活で、はぐくんでほしいこと>

 「今日はよくミルクを飲んだ。」という日もあれば「昨日とうんちの色が違う。」など、毎日の生活ではいろいろなことがありますが、どのようなことも親としての悩みになるでしょう。お子さんとともに過ごす時間においてご家族が全く悩まないで子育てをしていくという現実はありえないでしょう。ささやかな悩みもあるし、そうでない悩みもあるでしょう。そのときにだいじなことは、悩みにむきあい、考えて選択して解決して、進んでいく道を選び続ける、ということだと思います。そのように考えながら、子育てをしてほしいのです。これは最初にあったときにご家族にお伝えした、1)どのように子育てをするかは生まれた日から親がかかわっていくこと、2)口唇口蓋裂であることをお子さん自身や周囲にも隠さないこと、と重なることです。   
こうした毎日の生活の中で、解放感、安心や育児の喜びをたくさん得ながら、我が子自身にも「隠さない子育てをする意欲」をはぐくんでいってほしいのです。そして、お誕生の祝福をお伝えした私たち医療スタッフも、いつでもご家族の近くにいて支援させていただくということをこころにとめておいてください。ご家族が困ったときや悩むときに、解決のお手伝いとなり、ご家族を支えていきます。

<お子さんの写真を撮りましょうーきっかけ作り>

 隠さない子育てを心がける毎日の生活で、いきなり「今日、話して伝える」ことはありえません。同じように、しばらく放っておいてある時期からまとめて準備して伝えることもできないと思います。まずとりかかってほしいことがあります。それは、お子さんの成長アルバムを作ることです。具体的な方法について書きます。

1)生後まもなくからの(できれば生まれた日からの)、写真を撮ることが始まりです。当初、ご家族にとって写真を撮ることは大変なことかもしれません。そのときは受診日に会った医療機関のスタッフに撮ってもらっていいのです。そのとき見られなくて(ずっと)あとから見てもいいのです。しかし、そのとき撮らなければ、その日の我が子の写真は一枚もないことになりかねません。
2)写真をご家族で見ながらお子さんの話をし、成長を喜ぶ時間をもってほしいと思います。もちろん、ご夫婦やご家族同士がお互いの動揺・不安を受け入れる時間でもあるでしょう。このときに感じたことや思ったことをお互いに話してほしいのです。そのときに解決できない思いは医療者やその他の者にもちかけていいのです。
3)その後も続けて、お子さんの手術の前後、家族の行事、旅行、お子さんのきょうだいが誕生したときなどのいろいろな機会に写真を撮影するようにしてほしいのです。
4)写真が増えアルバムを作成し、ご家族は機会あるごとに成長していくお子さんにみせるきっかけをもってほしいのです。
5)お子さんが自分のみため(姿やかおかたち、)と他のお子さんのみためとの差異に気づく頃(およそ4歳くらいでしょう)から、ご家族は口唇口蓋裂のお話を、そのときの年齢に応じてわかる範囲でよいから、少しづつお子さんに伝えてほしいのです。    

以上が、撮った写真をきっかけにした家庭での話題作りとアルバム作りです。うえにあげたことがらのうち、だいじなことがひとつあります。それは、「口唇口蓋裂のこ・ニに関するお話のなかで、偽りの情報は与えない。事実と異なる話はしない。」ということです。   
では、事実について話すため、親はどのようにこころの準備を進めていくとよいのでしょう。

<「事実を伝えるためにお子さんと話す」準備をすすめましょう>

 いつ、なにを、どのように話したらいいのかと悩まれるでしょう。
生活の中で、きっかけはいつでもあります。うえにあげた写真がきっかけになることもあるし、上のきょうだいの疑問や、お子さんのお友達のことばがきっかけになることもあるし、歯磨きがきっかけになるかもしれません。お子さんが自分のことや周囲のひとのことば・姿に気持ちが向く時期が話題にする時期だと思います。話題になれば、「伝える」きっかけは始まっています。撮った写真はいろいろなことが映り、事実を支えるのに雄弁ですが、親子でなされる会話はさらに雄弁だと考えてください。
海外のセルフヘルプグループ(患者さんたちの本人の会)が作成した冊子のひとつに、「話す」親側の注意・配慮をまとめたものがあります。参考になると思います。箇条書きにしました。

・親が「お子さんの顔=顔貌」について語ることをタブーにしてはいけない。
・お子さんが顔について尋ねてきたら、待ったなし、と思って必ず応じる。
・まず親がお子さんの顔について混乱しないようになる。
子どもの求めに対していつでも応じられるようになる。
“なにを”ではなく、”どのように”語るかが大事!だと知る。
・お子さんと話すことを避けない。確信をもってわかりやすく話すことが重要。
・お子さんが他のこどもと”違う”ことは、”いけない”ことではない。
・お子さんに、一度に全てを話さなくていい。年齢に応じて話す。
・告知は(一度で済まなくて長い期間にわたるけど)首尾一貫した話をする。

読むと簡単そうですか? 実際は容易にいかない、と思われる方もいるでしょう。「お子さんに事実を伝える」は、決して簡単なことではなく、とても重要な・アとです。そう思って楽に進めていってほしいのです。できない、と思わないでほしいのです。もし難しくおもうときがあればそばにいる医療スタッフにそのお気持ちをうちあけていきましょう。
さきほども書いたように、お子さんの疑問は見える形から始まることが多いです。例をあげます。
「なぜ鼻の下に筋があるの?」「離れたところを縫った跡だよ。」
「いつ離れていたの?」「生まれたときにわかったの。」
「なぜ離れていたの?」「なぜなんだかママもわからないの。」「でも、うまく縫ってもらったからごはんは上手に美味しく食べられるのよ。」「うん、そうだね。」

実際の場面では、上手に話すことができなくてもいいのです。尋ねたことに確実に答える姿勢が大事で、お子さんに「いつ質問しても答えてくれる」安心感を与えてください。このことがなによりで、親が確実に答える行動を見せてこどもがいつでもきける信頼をもってくれることが大事です。一度に全てを話す必要はないと思ってください。平易な説明(でも嘘はなく真実に基づく説明)でいいのです。親がわからないことを曖昧に話すのではなく「わからない」といっていいのです。必ず答える準備と用意をして次回に話すことを約束したらいいのです。話題から逃げたり避けたりしてはいけません。お子さんは二度と質問しなくなってしまうかもしれませんから。こうした話し合い・伝えの時間の積み重ねは、真実を伝えるのみでなく、同時に親子間の信頼を更に強くする時間にもなるでしょう。
もし、今まで述べたことを難しく感じられるときがあれば、そばにいる医療スタッフにそのままのお気持ちをうちあけてください。親自身も、自分の気持ち(不安な気持ちや、こうしたいという計画など)を伝えて話すことで解決のてがかりを見つけましょう。ひとりですべてしなくていいのですから。このことをぜひ忘れないでいてください。
ところで、お子さんの成長とご家族への支援について述べましたが、年長きょうだいのお子さんたちについても同様です。こどもなりに抱える疑問があります。一緒に医療機関への受診の機会もある場合は心配や不安も抱えているかもしれません。こどもだから分からない、ではなく、子どもでも分かる説明をしてあげてきょうだいにも安心を与えてほしいと思います。お子さん本人への伝えと同様に、きょうだいへの伝えはきわめて重要な話題だと、わたしは思っています。その歳頃でこどもが納得する表現で、また納得したこどもが周囲のひとへ説明・対応できる内容を提供してあげることは、小さなこどもの社会生活を円滑に送る上でも大切なことと思います。

<前向きにすすもう!>

 「顔」に課題を抱える人々(やけどや事故後遺症、摘出手術跡、咬傷、あざなどを顔面に持つ人々は多くいます)が自分自身を知って周囲の人たちとかかわる際の方策があります。これも海外のセルフヘルプグループ(患者さんたちの本人の会)が発行している冊子からのまとめです。「REACH OUT=差し出す」の文字になぞらえてまとめてあります。幼児向けではないのですが、小学生以降なら対象になりそうです。このまとめは口蓋裂を伴う人だけでなく、親も含めすべての人々が自分の周囲の人たちとかかわっていく際の指針になるように思います。

*Reassurance  (安心し、新たな自信をもとう)
*Engage    (周囲とたずさわっていこう)  
*Assertiveness (ためらわないで断言しよう、はっきり話そう)
*Courage (勇気・度胸をもとう) 
*Humour (ユーモアあふれる態度でいこう)
*Over to you/over there! (ひとつにこだわらず話題から話題へすすもう)
*Understanding (自分と同じく相手もお互いを気にしていることを理解しよう)
*Try again   (なんどでもいい、またやってみよう)

<自分の人生を生きるー親離れの時期>

 こどもは成長して、家庭だけで過ごすのではなく、自分の遊ぶ(生きる)空間を外へ拡大していきます。所属する集団の場ができたら家族以外のひとと多くの時間をかかわります。親がいつもこどもの隣にいることができる時期はあっという間に終わります。小さな赤ちゃんだった我が子が成長とともにこどもになり、思春期を経て、やがてひとりで生きる力を獲得して本当のおとなになる日を想像してみてください。だれにでもやってくる未来です。自分の人生を肯定的に受け止め、周囲の人たちと交流し、共に活動し、楽しく生活する力をもって暮らす毎日。口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」をお子さんに伝えることはそのために必要だと思っています。
「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えることが親子のあいだでなされたら、お子さんにはどんなことが始まるのでしょうか。それは以下にあげた、こんなことだろうと思います。   

・ありのままの自分を知る   
・いままでの自分を知る   
・自分のことを知って、他者を知る   
・自分を大事に思う気持ちを持つ   
・他者を大事に思う気持ちを持つ   
・自分の人生を生きる

<さいごに>

 親から子へ、「口唇口蓋裂を伴って生まれた事実」を伝えてほしい、という、とてもだいじなことについてかきました。簡単なことではないけれど、親以外のひとがすることはありえないし、親でなくてはできない、だいじなことだと思います。
どうぞ、毎日の生活のなかで少しずつからでいいですから、始めてほしいと願っています。そして、そのとき困難を感じたなら、そばにいつも医療スタッフがいて支援していることを忘れないでいてください。

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