骨格性下顎前突症を伴う広汎型重度慢性歯周炎に包括的治療を行った一症例
白方 良典 | 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面機能再建学講座 歯周病学分野 |
概要
歯周病は歯周病原性細菌(プラーク)を原因とする成人の約8割が罹患している生活習慣病(炎症性疾患)である。中でも重度歯周炎患者は歯槽骨の吸収や歯の動揺だけでなく病的で著しい歯の移動(Pathologic tooth migration: PTM)による歯列不正が認められることが多い。こうした患者ではブラッシング(口腔清掃)が困難であり、さらに咬み合わせの不調和やそれに伴う外傷力が生じることにより歯周炎の増悪や再発が起き易いと考えられる。
今回、骨格性下顎前突症(受け口)と多くのPTMを伴った広汎型重度慢性歯周炎を有する49歳女性患者に、歯周基本治療、骨移植術を含む歯周外科治療、可撤式バイトプレートと矯正用アンカースクリューを利用した部分的矯正治療および修復・補綴治療を包括的に行った。
この結果、低侵襲かつ効率的に歯周組織の環境改善と歯列の連続性が獲得された。現在、サポーテイブ ペリオドンタル セラピー(SPT)に入り3年経過したが、良好に歯周組織と咬合の安定が維持されている。
【本研究の意義・重要性】
著しいPTMを有する中等度・重度歯周炎患者においては、適切な診断と治療計画に基づいて歯周基本治療、歯周外科治療だけでなく矯正治療および口腔機能回復(補綴)治療を包括的に行い、PTMを解消し、炎症と力のコントロールを行うことが長期的な口腔の健康管理・維持に極めて重要であると考えられる。
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/56/4/56_442/_pdf 日歯周誌56(4):442-450, 2014)