圧刺激による骨芽細胞のケモカインの発現誘導にはIL-1βとMyD88シグナル伝達系が必要である
前田 綾 | 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 発生発達成育学講座 歯科矯正学分野・助教 |
概要
目的:MyD88はToll 様受容体およびIL-1受容体の細胞内アダプター分子の一つであり、炎症性サイトカインやケモカインはMyD88依存型と非依存型伝達系により産生される。我々は以前、数種類のケモカインが歯根膜細胞や骨芽細胞の機械的刺激によって発現誘導されることを報告したが、そのシグナル伝達の詳細は不明である。本研究では、圧刺激による骨芽細胞におけるケモカインの発現誘導に、IL-1βとMyD88を介したシグナルが関与するか検討した。
試料および方法:MyD88遺伝子欠損マウス(以下MyD88-/- と野生型MyD88+/+ C57BL/6新生仔マウス(以下WT)から単離した骨芽細胞(OB)に圧刺激を負荷し、ケモカイン(CXCL2,CCL2)とIL-1βのmRNA発現をリアルタイムPCRで定量した。また、抗IL-1β中和抗体とIL-1βを添加した実験を行った。さらに、MAPキナーゼのリン酸化を、ウエスタンブロット法で解析した。
結果および考察:MyD88-/- のOBでは、定常的なIL-1βの発現が微量であり、圧刺激によるこれらのケモカインの発現増加量はWTと比較して有意に低下していた。WTのOBに抗IL-1β中和抗体を前投与した圧刺激実験では、ケモカインの発現増加は認められなかった。IL-1βと圧刺激の共刺激では、WTではケモカインの発現量が著しく増加したが、MyD88-/- では増加しなかった。また、これらのケモカインの発現が増加した条件下において、MAPキナーゼのリン酸化が確認された。これらの結果から、圧刺激によるOBのケモカインCXCL2とCCL2の発現誘導に、IL-1βを介したMyD88依存的シグナル伝達系とMAPキナーゼの関与が示唆された。
結論:圧刺激による骨芽細胞のケモカインの発現誘導にはIL-1βとMyD88シグナル伝達系が必要である。
【本研究の意義・重要性】
MyD88を介するシグナル伝達経路のIL-1βタンパク量を調整することにより、歯の移動に必要な炎症反応を生じさせ、一方では、過剰な炎症反応を抑制することにより、安全で効率の良い矯正治療による歯の移動を行うことが期待できると考える