小児期の上気道通気障害がもたらす顎顔面歯列咬合形態への影響と小児歯科からの睡眠医療への貢献
岩崎 智憲 | 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 発生発達成育学講座 小児歯科学分野・准教授 |
概要
これまで小児期の呼吸が顎顔面形態におよぼす影響について数多くの研究が行われてきた。しかし、実際の呼吸状態を観察する場合、側面頭部エックス線規格写真を用いた2次元画像による気道形態だけの解析では上気道通気状態の適切な評価は困難であり、的確な知見は得られないでいた。
そこで、我々はコーンビームエックス線CTデータを用いて数百万点の集合体からなる3次元上気道モデルを構築し、これらの形態情報を通して、空気の流れを機能的に評価できる流体解析を応用し、呼吸状態を観察できる「気道通気状態検査システム」(国立大学法人鹿児島大学知的財産:08K001ノウハウ取得)を確立し、従来よりも格段に高性能な上気道通気状態の解析を可能にした。
その結果、Class II小児において上気道通気障害が長顔傾向の原因になり得ること、また、上気道の中でも鼻腔、上咽頭、口腔咽頭、下咽頭など様々な部分がその原因部位になり得ることを明らかにした。Class III小児の咽頭気道形態においては下咽頭部の長径、幅径が大きく、低位舌を認めることを示した。
【本研究の意義・重要性】
これらの知見は我々小児歯科医にとって小児の歯列咬合管理に有用な情報を示すこととなった。さらに上顎骨の側方急速拡大により鼻腔通気状態が改善すること、咽頭気道部の気道体積が増大すること、鼻腔通気状態の改善に伴い低位舌が改善することを明らかにし、上顎急速拡大が上気道通気障害の改善におよぼすメカニズムを明らかにした。
今後、有病率が2%と高頻度で、医科的対応法による治療成績が70%程度とされる小児期の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対して、その有効性が推定される上顎急速拡大や下顎前方誘導などの歯科的対応法を応用した治療効果のエビデンスを発信したい。そして睡眠障害が原因で元気のなかった子どもたちの活力を回復させ、小児歯科から新たな社会貢献が実現できるように努めたい。