歯科矯正治療による片側性唇顎口蓋裂を伴う患者の移植骨の変化:
過去30年間における治療結果の長期的評価
前田 綾 | 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 発生発達成育学講座 歯科矯正学分野・助教 |
概要
【目的】
唇顎口蓋裂患者の治療において、顎裂部に自家腸骨海綿骨移植術(BG)を行った後、矯正歯科医は移植骨の予後を予測し、最終的な咬合について治療計画を立案しなければならない。しかし、矯正治療を行った後の移植骨の変化については、十分に検討されていない。そこで我々は、片側性唇顎口蓋裂(UCLP)および片側性唇顎裂(UCLA)患者のBG後の移植骨が、マルチブラケット装置による矯正治療(MB治療)終了後にどのよう変化したか長期的評価を行ったので報告する。
【方法】
対象は、過去30年間に当院で骨移植とMB治療が終了し、本研究に必要な資料が全て存在する43名とした。咬合法X線写真を用いてChelsea scaleにより骨架橋を、ABG scale scoreで顎裂側の骨量を評価した。評価時期は、BG後6~12か月(T1)とMB療終了時(T2)とし、T1での骨架橋の評価により、良好群と不良群に分類し、T2における移植骨の変化を調査した。また、顎裂幅とMB治療開始時期についても調査した。
【結果】
良好群は不良群と比較して、顎裂幅は有意に狭く、ABG scale scoreは T1で中切歯側が、T2で両顎裂側が有意に高かった。T1における骨架橋の評価がT2で変化する割合は、不良群で有意に高く、不良群では良好群に比べてBG後のMB治療による歯の移動時期は有意に早かった。骨架橋が改善した症例では、1年以内に矯正治療による歯の移動を行っている症例が多かった。また、良好群における中切歯側のABG scale scoreは、T1と比較してT2で有意に低かった。
【考察】
BG後6~12か月での骨架橋の評価は、中切歯側の骨量に依存しており、また、良好な骨架橋でも、矯正治療後に中切歯側の骨量が減少したことから、犬歯側と比較して中切歯側で骨量が減少しやすいことが示唆された。また、顎裂幅が広く、BG後6~12か月では骨架橋が不良な症例でも、矯正治療による1年以内の歯の移動により、良好な骨架橋へ変化する可能性が示唆された。
本研究結果は、顎裂幅が広い唇顎口蓋裂患者では、骨移植後早期に矯正治療による歯の移動を行うことで、骨架橋が改善する可能性があること、また、良好な骨架橋でも、中切歯側の骨量は減少することが示された。この結果は、今後の唇顎口蓋裂治療の一助となると考えられる。