顎関節症患者の咀嚼筋の疼痛に関連する脳賦活部位の検討

永山 邦宏  鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 矯正歯科

【概要】 

 近年、 functional magnetic resonance imaging(fMRI)によって咀嚼や発音等の顎口腔機能に関連する脳賦活部位が明らかになってきている。しかし、顎口腔機能の障害については、顎関節症患者の咀嚼筋の浮腫性変化を様々なMRI撮像法によって画像的に抽出した報告はあるが、咀嚼筋の痛み等により顎口腔の機能障害がおこるメカニズムを脳賦活部位の観点から調べた報告はない。そこで我々は、実際に咬筋に痛みを伴う顎関節症患者に対し、fMRIを用いて、咬筋の痛みの症状と脳賦活部位との関連を検討した。被験者は右利きで咬筋に痛みを認めた成人女性(顎関節症群)と、正常咬合を有する成人男性(コントロール群)とした。負荷刺激として、被験者に随意の噛みしめを可及的に強く行うように指示し、負荷と安静を30秒間ずつ3回繰り返し、負荷刺激時のfMRI撮影を行った。脳賦活部位の抽出は脳機能解析ソフト(Statistical Parametric Mapping 8)を用いて、3Dの標準脳にカラーマッピングした。

 

 その結果、コントロール群では噛みしめ時に咀嚼運動に関連する大脳皮質咀嚼野の賦活を認めた。顎関節症群では、痛みの認知や感覚と動作の統合によって問題解決行動の選択をするとされる前頭前野背外側部と、痛みがない健常側の大脳皮質咀嚼野の賦活を認めたが、痛みがある側の大脳皮質咀嚼野の賦活を認めなかった。これらのことから、咬筋の痛みの発現により、前頭前野背外側部が賦活し、痛みがある側の大脳皮質咀嚼野の賦活が減少することで、噛みしめが抑制されることが示唆された。

 

【本研究の意義・重要性】

 ブラキシズムや顎関節症等の無意識下での顎口腔の機能障害は様々な口腔疾患の危険因子であるだけでなく、心理社会的問題や自律神経系の変調などの全身的不調和を伴うことも多く、患者や歯科医師を悩ませる口腔疾患の一つであるとされる。しかし、その発現機序は未だ不明であり、治療法としてスプリント療法や薬剤投与等の対症療法が用いられているのが現状である。そこで、顎口腔の機能障害の発現機序が中枢である脳機能を介して解明できれば、自律神経の異常の前駆段階として位置づけられ、全身の健康状態における歯・口腔機能の新たな生理学的意義を提唱するだけでなく、原因の特定や根本療法の開発に繋がると考えられる。

 

 

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