胃酸分泌抑制剤ニザチジンの唾液分泌促進剤としての可能性
― 中枢への作用と内臓感覚との関連 ―

植田 紘貴 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 矯正歯科

【概要】 

 胃食道逆流症の治療薬に用いられる胃酸分泌抑制剤の一つであるニザチジンはH2受容体拮抗剤であるが、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用によりシナプスでの神経伝達効率を高めることにより副次的に唾液分泌を促進することが報告されている。ニザチジンの副作用の一つに嘔吐があり、ニザチジンの一部は中枢に到達していると考えられるが、その詳細は未だ明らかでない。本研究では、脳室内投与したニザチジンが唾液分泌の動態に影響を与えるのではないかという仮説を立て、ニザチジンの中枢投与が唾液分泌に与える影響を検討した。さらに、胃食道逆流症の症状の発現との関連が疑われる迷走神経求心路を介した内臓感覚と唾液分泌との関連に着目し、迷走神経求心路の電気刺激が唾液分泌に与える影響を検討した。

 実験にはWistar系雄性ラットを用いた。ケタミンおよびキシラジンで全身麻酔を行い、脳定位装置を用いて第IV脳室にカニューレを設置した。頚部にて迷走神経を切断後に中枢側に刺激電極を設置し、迷走神経求心路の刺激前後における左側顎下腺からの唾液分泌量を圧力トランデューサーで計測した。次に第IV脳室へのニザチジン投与前後の唾液分泌量を記録した。迷走神経の電気刺激は顎下腺からの有意に高い唾液分泌量を誘発した。また、ニザチジンは第IV脳室への単独投与で有意に検出できる唾液分泌の増加を示さなかったが、迷走神経刺激を伴った場合に用量依存的に、有意に高い唾液分泌量を誘発した。これらのことから中枢投与したニザチジンは、内臓感覚を中枢に伝える迷走神経求心路の活動を伴う場合に、唾液分泌を促進する可能性が示唆された。

【本研究の意義・重要性】

 本研究結果は、内臓感覚が唾液分泌を促進するという新たな反射経路の存在と、中枢に到達したニザチジンがその反射経路を増強するという唾液分泌の新たな制御機構の存在を示唆している。
 ニザチジンは臨床的には胃酸分泌抑制剤として胃食道逆流症の対症療法の治療薬に用いられるが、その副次的な唾液分泌の促進効果を期待して医科領域で使用される場合があった。その主要な唾液分泌促進作用は、唾液腺に分布するアセチルコリン受容体の刺激によると考えられているが、中枢に到達していると考えられるニザチジンの唾液分泌に対する効果は明らかではなかった。

 私共は本研究から、中枢投与したニザチジンは迷走神経求心路の活動を伴う場合に、用量依存的に唾液分泌量を促進することを明らかにした。本成果は、ニザチジンが脳腸相関の観点から今後新たな口腔乾燥症治療薬として歯科臨床で応用される新たなエビデンスとなる可能性がある。

 

 

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