【研究内容の概要】
※論文の著者の情報:下線は受賞者、*は責任著者(corresponding author)、#は互いに等しい貢献をした著者(authors who equally contributed)をそれぞれ表しています。
白方 良典歯周病学分野(成人系歯科センター歯周病科)
・重度歯周炎により喪失した歯周組織の再生や歯の保存を目的に様々な外科的歯周組織再生療法が試みられている。しかしその多くは複雑で適応症に限界がある。そこで整形外科領域で難治性の骨折治療に用いられている低出力超音波パルス(LIPUS)に着目し、歯肉剝離掻爬術(OFD)後の経皮的な短期LIPUS照射の有無による歯周組織再生効果をイヌの2壁性骨内欠損を用いて検証した。その結果、LIPUS照射群は何ら有害事象を認めることなくOFD群に比較し有意に歯周組織再生量が多かった。以上のことから従来型のOFDに加え、術後にLIPUS照射を行うことで低侵襲かつ簡便に歯周組織再生が促進される可能性が示唆された。
Shirakata Y*, Imafuji T, Sena K, Shinohara Y, Nakamura T, Noguchi K. Periodontal tissue regeneration after low-intensity pulsed ultrasound stimulation with or without intra-marrow perforation in two-wall intra-bony defects — A pilot study in dogs. J Clin Periodontol 2020; 47(1):54-63. [Wiley Online Library]
鈴木 甫口腔顎顔面外科学分野(口腔顎顔面センター口腔顎顔面外科・漢方診療センター)
・エナメル上皮腫は、いくつかの特徴的な浸潤型を有する代表的な歯原性腫瘍であるが、サブタイプ間の差異を引き起こす要因を in vivo で解明するためには、不死化細胞株を用いた安定した動物実験モデルが重要である。本研究では、不死化した2つの異なるサブタイプに由来するヒトエナメル上皮腫由来細胞株を用いて、新しいマウス動物実験モデルを確立した。このモデルを用いることで、エナメル上皮腫の複雑な病態生理が明らかにされ、新たな治療戦略の開発に貢献する可能性がある。
Fuchigami T*, Suzuki H, Yoshimura T, Kibe T, Chairani E, Kiyono T, Kishida M, Kishida S, Nakamura N. Ameloblastoma cell lines derived from different subtypes demonstrate distinct developmental patterns in a novel animal experimental model. J Appl Oral Sci 2020; 28:e20190558. [SciELO - Brazil]
・口腔扁平上皮癌(OSCC)患者における術前の栄養不良やサルコペニアが生存率に及ぼす影響を検討した。術前の栄養状態と、画像検査のCTより腰部骨格筋の質と量を計測し、OSCC患者の生存率に及ぼす影響を後方視的に検討した。その結果、OSCC患者において、術前の血液検査から算出される栄養不良指数や、術前の腰部骨格筋の質低下などの体組成の異常が、疾患特異的生存率低下の独立した予後予測因子であることが示された。本研究より、術前の栄養状態と骨格筋の質の評価がOSCC患者の死亡率を予測するのに有用であることが明らかとなり、術前からの栄養・リハビリテーション介入が重要であることが示唆された。
Yoshimura T#, Suzuki H*#, Takayama H, Higashi S, Hirano Y, Tezuka M, Ishida T, Ishihata K, Nishi Y, Nakamura Y, Imamura Y, Nozoe E, Nakamura N. Impact of Preoperative Low Prognostic Nutritional Index and High Intramuscular Adipose Tissue Content on Outcomes of Patients with Oral Squamous Cell Carcinoma. Cancers 2020; 12(11):3167. [MDPI]
富田 和男歯科応用薬理学分野
・私たちは、放射線をはじめとしたがん治療に抵抗性の細胞と感受性の細胞を用いてがん克服を目指した研究を行っており、2020年は、1. 放射線に抵抗性を示すがん細胞は、放射線だけではなく過酸化水素(H2O2)にも抵抗性だが、H2O2抵抗性細胞は放射線に対して抵抗性ではないこと、2. 放射線に感受性の細胞はH2O2にも感受性であり、細胞内Fe2+量とH2O2透過性をもつアクアポリンの量が多く、鉄依存性細胞死であるフェロトーシスが起きやすい事を明らかにした。さらに、3. この放射線に感受性の細胞は、正常ミトコンドリアを移植することにより、H2O2に対する感受性がキャンセルされる事も明らかにした。[参考HP]
1. Kuwahara Y, Tomita K*, Roudkenar MH, Roushandeh AM, Urushihara Y, Igarashi K, Nagasawa T, Kurimasa A, Fukumoto M, Sato T. The Effects of Hydrogen Peroxide and/or Radiation on the Survival of Clinically Relevant Radioresistant Cells. Technol Cancer Res Treat 2020; 19:1-10. [SAGE Journals]
2. Takashi Y#, Tomita K#, Kuwahara Y, Roudkenar MH, Roushandeh AM, Igarashi K, Nagasawa T, Nishitani Y, Sato T. Mitochondrial dysfunction promotes aquaporin expression that controls hydrogen peroxide permeability and ferroptosis. Free Radic Biol Med 2020; 161:60-70. [ScienceDirect]
3. Roushandeh AM#, Tomita K#, Kuwahara Y, Jahanian-Najafabadi A, Igarashi K, Roudkenar MH, Sato T. Transfer of healthy fibroblast-derived mitochondria to HeLa ρ0 and SAS ρ0 cells recovers the proliferation capabilities of these cancer cells under conventional culture medium, but increase their sensitivity to cisplatin-induced apoptotic death. Mol Biol Rep 2020; 47(6):4401-11. [SpringerLink]
村上 格成人系歯科センター義歯インプラント科
・支台装置を持たない分割式栓塞子についての症例報告である。筋上皮腫により口蓋切除が行われた有歯顎女性にワイヤークラスプを用いた栓塞子を装着したが、審美不良とクラスプ周囲への食査の停滞ならびに嚥下時の鼻漏が改善できなかった。そこで、支台装置を用いず口蓋欠損部を栓塞する分割式栓塞子を設計した。栓塞子は床用レジンと軟質リライン材の2層構造とし、軽量化のため中空とし、磁性アッタチメントで口蓋床と栓塞部に分割できるようにした。分割式栓塞子装着後は、咀嚼機能、鼻咽腔閉鎖機能ならびに患者の満足度が改善した。現在、3か月ごとの定期検査を行っているが経過は良好である。
Murakami M*, Nishi Y, Shimizu T, Nishimura M. Retainer-free obturator prosthesis in a fully dentulous patient with palatal defects. J Oral Sci 2020; 62(1):122-4. [J-Stage]
・保湿剤のCandida albicansならびにCandida glabrataに対する抗真菌性に保湿剤の保管温度ならびにpHが及ぼす影響を検討した研究である。保湿剤31種を25℃ならびに37℃で保管し、カンジダを播種した培地に試料を封入して発育阻止円を計測した。その結果、37℃の試料は25℃のものより、中性pHの試料は酸性pHのものより阻止円は有意に大きかった。保湿剤と抗真菌剤(AMPH-B)の発育阻止円を比較した結果、多くがAMPH-B 0.63(µg/ml)以上であった。以上の結果より、口腔乾燥を有する口腔カンジダ症に対し、保湿剤の加温や中性pHの製品選択の有効性が示唆された。
Murakami M*, Harada K, Nishi Y, Shimizu T, Motoyama S, Nishimura M. Effects of storage temperature and pH on the antifungal effects of commercial oral moisturizers against Candida albicans and Candida glabrata. Medicina 2020, 56(10):525. [MDPI]
柳澤 彩佳発達系歯科センター小児歯科
・小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)の新規原因部位特定法として、上気道流体シミュレーション(CFD)の有効性を検討した。対象小児をOSAの重症度(AHI)でOSA群とControl群に分け、CTデータから上気道3次元モデルを構築後、熱流体解析ソフトによる吸気時CFDにて、上気道各部位の速度・陰圧の計測、2群間比較及びAHIと各計測項目を相関分析した。その結果、最大速度・陰圧がAHIと強く相関し、速度12m/s以上の部位を原因部位と推定した。更に、速度は速くないが陰圧は大きい睡眠時気道閉塞予想部位が示された。本研究は、原因部位の特定及び気道閉塞部位との鑑別可能な優れた検査法であることが示された。
Yanagisawa-Minami A, Sugiyama T, Iwasaki T*, Yamasaki Y. Primary site identification in children with obstructive sleep apnea by computational fluid dynamics analysis of the upper airway. J Clin Sleep Med 2020; 16(3):431-9. [JCSM]
山下 薫歯科麻酔全身管理学分野(麻酔全身管理センター歯科麻酔科)
・下顎埋伏智歯抜歯中の局所麻酔薬の違いが自律神経系と循環動態に与える影響を比較検討することを目的として、前向きランダム化比較試験を行った。その結果、循環動態の変化と連動した神経学的な変化が観察された。さらに、局所麻酔薬の違いにより異なる神経学的な変化と循環動態の変動を引き起こすことが示された。
Yamashita K, Kibe T*, Shidou R, Kohjitani A, Nakamura N, Sugimura M. Difference in the effects of lidocaine with adrenaline and prilocaine with felypressin on the autonomic nervous system during extraction of the impacted mandibular third molar: A randomized control trial. J Oral Maxillofac Surg 2020; 78(2):215.e1-8. [ScienceDirect]
・患者の歯科治療前の不安や自律神経系の状態把握を目的として、下顎埋伏智歯抜歯が行われる患者を治療群、ボランティア成人を対照群とし、治療群の治療前の自律神経系、脳波、心理状態を対照群のものと比較検討した。その結果、STAI-Sスコアの取得は下顎埋伏智歯抜歯前の患者の自律神経系の状態を予測するために有用な方法であることが示された。
Yamashita K, Kibe T*, Aoyama K, Ohno S, Kohjitani A, Sugimura M. The State Anxiety Inventory is useful for predicting the autonomic nervous system state of patients before the extraction of an impacted mandibular third molar. J Oral Maxillofac Surg 2020; 78(4):538-44. [ScienceDirect]