口腔・大腸マイクロバイオームが導く大腸がん予測システムと予防法の開発 / 研究者:内野 祥徳
近年、大腸がんを含む多くの消化器系癌の原因として腸内マイクロバイオームの重要性が明らかとなっています。さらに大腸のマイクロバイオームでは、口腔細菌叢に含まれる歯周病原因菌を含み、発癌および進展に影響を与えている可能性が示唆されていますがその詳細は不明です。当科では先行研究において唾液および便サンプルで共通して健常者に比べ大腸がん患者において相対存在量が高い4つの菌種を抽出しました。さらにその中の1菌種においては大腸がんの進行に伴い相対存在量が増加していることを明らかにしました。
今後我々は唾液のみによる大腸がん検診の有効性を示し、より簡便なスクリーニング法を確立、効率的で費用対効果の高い大腸がん検診の実現を目指します。そして歯科介入という前向き研究を行うことで、口腔疾患の治療および予防が、大腸がんを含めた消化器系癌の罹患率の低下、ひいては死亡率の低下に寄与することを証明するのが目的です。
研究テーマ:① 大腸がんおよび大腸腺腫における口腔と大腸のマイクロバイオームの比較
健常者50名、大腸腺腫25名および大腸がん患者25名(いずれも治療前)より唾液および便検体を採取する。口腔からのサンプル採取は起床時すぐに行い、凍結処理を行う。目標検体数に達した段階で次世代シーケンスによる口腔および大腸のマイクロバイオーム解析を行う。大腸がんおよび大腸腺腫における口腔と大腸の細菌叢を比較することで、Stageが上がるメカニズムの一端を解明する。またさらに、先行研究においてはF. nucleatum の中でも、亜型の違いによって、口腔内から腸内に供給され大腸がんの発癌、進展に影響するもの、もしくはしないものが存在する可能性を見出した。本研究においては大腸がんに影響している可能性があるF. nucleatum の亜型の存在の有無をエンドポイントととして2群に分け、マイクロバイオーム解析による比較を行うことで、他の原因と考えられる菌種を複数同定することも予定している。


研究テーマ:② 口腔マイクロバイオーム解析による大腸がんリスク診断法の開発
原因口腔細菌を検出するため、マイクロバイオーム解析を基にPCRによる検出法を基本に、細菌量と細菌種を検出できるシステムを開発する。PCRのため、引き続き健常者50名、大腸腺腫患者25名および大腸がん患者25名から唾液採取を行う。PCRの結果からROC解析を行い、唾液検体による診断のみで大腸がんのリスクを診断できるシステムを構築する。システムの開発にあたっては、ランダムフォレストを用いて発癌リスクの予測式を作成することも予定している。
研究テーマ:③ 口腔細菌叢のコントロールによる大腸がんリスク改善の可能性の検討
原因口腔細菌を持つことが予想される歯周病を有する非大腸がん患者を対象に前向き研究を行う。積極的歯科介入(歯周病治療、口腔ケア)を行う群と行わない群で、腸内細菌叢が変化し、大腸細菌叢から原因菌が減少または消失するかを検討する。非大腸がん患者30名を2群に分け、歯科治療(歯周病治療)介入前・介入後(非介入群は同時期)の唾液および便のペア検体を採取し、マイクロバイオーム解析を行う。解析により歯科治療の介入有無によるマイクロバイオームへの影響を検証する。
