口腔扁平上皮癌早期診断マーカーとしてのmiRNAのナノポア計測の有用性 / 研究者:別府 真広
がんの診断手法で、血液などの検体を用い、体への侵襲を最小限に抑える診断ツールとしてリキッドバイオプシーが注目されています。口腔扁平上皮癌(OSCC)のモニタリングにおいて、従来の古典的な腫瘍マーカーはその感度や特異度においてかなり低く、早期癌の発見や術後再発例の早期発見は困難であり、信頼性の高い高感度バイオマーカーの同定は急務といえます。microRNA (miRNA)はリキッドバイオプシーにおける主要なバイオマーカーの一つとして知られており、現在までにOSCCのいくつかのmiRNAプロファイルの転移との関連が報告されていますが、癌関連のmiRNAは癌遺伝子機能を持つ癌促進型miRNAおよび癌抑制遺伝子機能を持つ癌抑制型miRNAである2つに分類されます。
我々はすでにOSCCにおける癌促進型miRNAと癌抑制型miRNAの候補を先行研究により報告しており(K. Nakamura et al, Cancers. 2021 Jan 25;13(3):449)さらに各々のmiRNA単独ではなく、癌促進型miRNAと癌抑制型miRNAを組み合わせたmiRNA indexにより術前術後のmiRNAの変化や臨床におけるリンパ節転移との関連性についても報告しています。
Kawanoらのグループは、胆管癌に過剰発現していることが知られている5種類のmiRNA(miR-193, miR-106a, miR-15a, miR-374, miR-224)と直線的に結合できる配列とヘアピン構造を持つ診断用DNA「HP-dgDNA」を開発し、胆管癌患者群および健常者群の血漿中における5種類のmiRNAの同時検出を試みています(図1)(Nanami et al, JACS Au. 2022 Jun 26;2(8)1829-1838)。
HP-dgDNAとmiRNAは各々の結合パターンおよびその結合力、そして発現量により、電圧をかけた際のナノポアの通過時間におけるアンジップ(2本差がほどける)時間に差が生じ、その測定によりmiRNAの発現を検出することができます。
既に我々はKawanoらのグループとともに先行研究にて得られた知見を基にOSCC群と健常者群の血清サンプルを用い、ナノポアを用いた、OSCCでの特徴的な発現を示す2種類のmiRについて測定を開始しています。今後はさらにmiRNAの種類および臨床サンプルを増やし、従来のRT-PCR法との比較も行いながら、癌の早期発見、治療後の予後判断のマーカーとしての有用性について検討する予定です。
